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裁判例からみた土砂災害  稲垣秀輝
 

○増えてきた災害と裁判
  近年自然災害増加し、通常時での裁判だけでなく、豪雨・地震災害に起因する土砂災害による裁判例が増えてきています。社会資本整備という本当に堅い仕事をお手伝いし続けて30年以上。道路・鉄道・河川・電力線・上下水・電話線などのライフラインの建設やメンテ、大型施設の建設やメンテ、地すべり・崖崩れ・土石流・地震・火山噴火などのいろいろな自然災害の調査や対策の立て方、森林整備や環境保全などよくやってきて、自然災害が発生したときは待ったなしで、翌日には現場に直行したこともあります。こういった経験の積み重ねが、裁判の時にものをいうので刺激ががあります。

○地震時の造成宅地地盤の変状と裁判事例
  10年に1回程度震度5の地震が発生している地域ならば、それに耐え得る宅地でなければ瑕疵があるとされた事例を紹介します。

 本事例では、1978年の宮城県沖地震により、宅地に数カ所の亀裂と一部地盤沈下が発生し、居宅にも基礎地盤及び壁面の亀裂、床面の沈下等の被害が生じました。被害を受けた住民が造成主・売主である市の瑕疵担保責任に基づいて建物修補費用及び宅地の価格減少分の損害賠償を求めて提訴したものです。
 当該造成宅地は昭和45年ごろに丘陵地を造成したもので、地盤は切土地盤、盛土地盤、切盛境の3種類がありますが、
外観上は同種地盤の宅地として販売されたため、原告らは宅地が盛土地盤あるいは切盛境の地盤であるか知らないままに購入していました。第一審は、地盤研究者の見解等に基づき当該地域の震度が6程度であったとし、宅地は耐震性については経験的に予想された震度5には耐え得る強度を有しており、瑕疵はないとして瑕疵担保責任を否認し請求を棄却しました。これに対して控訴審では、売主の瑕疵を認め、損害賠償額については、瑕疵と相当因果関係にある額及び今後必要となる特殊基礎工事費としました。

○今後の課題
 宅地の耐震性については、様々な条件が関係するため客観的基準を設けることは難しいのですが、
瑕疵担保責任は事実を知ったときから1年であり、造成後の経過年には関係がありません。2011年3月11日に発生した東日本太平洋沖地震でも盛土宅地が選択的に被災し、大きな社会問題となっています。特に、対策工済みの盛土が変動したところもあり、今後裁判対応が増加する可能性があると考えられます。
 土砂災害に携わる技術者は、突発的な災害リスクや施工時のリスクなど様々なリスク・責任の一端を担っています。その対応のしかたとしては、技術的な解決だけでなく、法律や裁判を含めた解決を余儀されることがあります。このような背景から、まず、様々な土砂災害と法制度とを体系的・有機的に整理することが重要です。

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