丹沢の鹿

稲垣秀輝 

プレートテクトニクスは、数千万年~数億年に及ぶ日本列島の歴史の解明に大きな変革をもたらしました。

火山灰編年学(テフロクロノジー)は、ここ数万年の地球環境の変遷の解明に大きく貢献しました。

ここ数十年における人間社会の活動に伴い、自然環境や生態系は劇的に変化しました。

このような、地球と人類の歴史に関わる諸現象・循環系が集約されている地域が丹沢です。
今後は生態系調査も増えていくでしょう。

丹沢山地を構成する岩体の多くは、南の海で1700~1200万年前の海底火山噴出物からできており、100~70万年前にかけて本州と衝突した伊豆半島の圧力によって丹沢山地の岩体が隆起し、現在の急峻な山地が形成されました。日本の代表的な火山灰である、姶良-Tn火山灰は、丹沢山系で発見されたことによって、その分布の広さが認識されました。

そしていま、シカの食害とヒルの増加が問題になっています。昭和20年代に、狩猟の解禁により丹沢山地のシカは絶滅寸前となったため、その後保護のため15年間禁猟されました。また、広葉樹林の伐採に伴って、草本~低木類が生育し、シカに多量の食物を供給しました。こうしたことが相まって、今日現地踏査をしていても、すぐ近くに鹿の群れが出てくるようになりました。さらに悪いことに、鹿とともに”招かれざる客”ヒルの被害が増えることとなりました。

現場で数億年にわたる地球の悠久の歴史と会話して、ほっと一息つこうとしたとき、そんな”ヤツ”が地球の物質循環の乱れを警告してくれます。