調査道具をDIYしてみる① ~集水井調査用のカメラ~

備忘録もかねて紹介したいと思います。市販のものを使って作成しています。

集水井とは

地すべりの滑動原因となる地下水を排除して安定化させるための対策施設です。直径3.5m、深さ20m程度の縦坑(井戸)と、井戸内から水抜ボーリングをして地下水を集めて地すべりの地下水位を低下させます。

経年劣化するため点検が必要ですが、人が進入しての点検は危険が伴います。井戸の深さは7~8階のビル程度の高さがあるため高所作業です。

そのため地上からカメラを降ろして点検できれば安全に調査できます。

点検カメラにほしい機能

  • ①明かり:深さ15m程度になると、とても暗い
  • ②防水:井戸の中は常時雨が降っている状態です
  • ③360°撮影またはカメラの向きを遠隔操作できる:井戸内部の全周を調査するため
  • ④遠隔で操作できる:必要な位置でシャッターを切るため
  • ⑤撮影画像をリアルタイムに地上で確認できる:その場で異常を観察したい
  • ⑥軽量:山中の井戸まで人力で運ぶ、カメラを吊り下げる必要がある
  • ⑦スペアが用意しやすい、部品の交換が容易、それらの費用が安い

カメラをいろいろ探しましたが、値段が高かったりして丁度良い商品がありませんでした。自分で作ってみることにしました。

材料一覧

今回用意したのは以下になります。吊下げのワイヤー等は省略しています。

ユニット部品役割金額
カメラ①Raspberry Pi
+microSD
カメラとモーターの制御、地上のPCとのWi-Fi通信8,000~15,000
②webカメラ×2撮影6,000
③サーボモーターwebカメラの向きを変える1,000
④ジャンパワイヤ①③の接続、はんだは使いません100
⑤モバイルバッテリー上記の電源。もっと小型のものでも良かった8,000
⑥食品保存容器など①~⑤をこの中に組み立てる、100均500
吊下げ⑦プラスチック容器などカメラユニット吊下げ用、100均1,000
⑧ヘッドランプ×4明かり12,000

接続準備

①Raspberry Pi

名刺サイズのシングルボードコンピュータ。マイコンも選択肢にありましたが、いろいろできそうなのでこちらを選びました。ケースも買っています。

・OSインストールや初期設定
OSはRaspberry Pi用のOSであるRaspbianにしました。Linux系で無料です。公式サイトでダウンロードしてmicroSDに書き込みます。詳しくないので、webで検索しました。広く利用されているため、丁寧に説明されているサイトがたくさんあります。インストール後はRaspberry PiにmicroSD、マウス、キーボード、ディスプレイ(micro-HDMI)をつなぎ初期設定しました。

・Python
プログラムはPythonという言語で進めます。扱ったことがありませんが初心者でも習得しやすい(らしい)です。サーボモーターや温度計などを制御するサンプルコードがwebで見つかるため取りつきやすかったです。

・リモートデスクトップ
初期設定後は、普段使っているPCから操作できるようにします。Windowsのリモートデスクトップで接続できるように、Raspberry Piに「xrdp」アプリをインストールします。

・現場での接続準備
地上からノートPCやタブレットで井戸内のRaspberry PiにWi-Fiで繋ぎます。モバイルルーターを持っていれば、それをアクセスポイントにすれば設定が簡単です。
*アプリのインストールと設定の変更が必要ですが、Raspberry Piをアクセスポイントにすることも可能です。

②webカメラ

USBのwebカメラを使います。モーターが180°回転のものでも対応できるように、カメラを2個使っています。

・接続
Raspberry PiのUSBポートに挿すだけで使えます。カメラ本体はサーボホーンにネジ止めしました。
・ソフト
Raspbianにもともとインストールされていた、「guvcview」を利用しました。上下反転や、カメラの切り替え、カメラ映像の確認・キャプチャができます。

③サーボモーター

マイクロサーボSG90を使いました。180°回転できるものと360°回転できるものがあります。
・接続
Raspberry PiのGPIOピンとサーボモーターを④ジャンパワイヤで接続します。
・pythonコード
今後公開していこうと考えています。
サンプルコードをベースに作成しました。このファイルをリモートデスクトップで実行して、カメラ角度を調整します。

⑤モバイルバッテリー

市販のモバイルバッテリーを使用しました。
・接続
usbケーブルでRaspberry Piに接続します。
・バッテリー容量
現場で1日持たせたいので、大き目のものを購入しました。もう少し小型のものでも良かったと思います。重く、カメラユニットも大きくなってしまいました。

⑥食品保存容器

①~⑤のサイズに合わせて、100均で購入できるものを使いました。

⑦吊下げユニット

100均で手に入る資材をベースに組み立てています。ケースが四角形なので、ヘッドランプは4方向にしています。キャンプ用のランタンも試しましたが、撮影に耐える明るさにはなりませんでした。

接続・組み立て

食品保存容器内に組み立てます。サーボモーターは、固定位置にホットナイフで穴をあけて、ネジで止めています。開けた穴の隙間はシールパテで埋めています。

吊り下げユニットは主に結束バンドで組み立てています。カメラユニットはビニール袋で傘になるように覆い、レンズに水滴がつくのを防いでいます。

操作

ノートPC、Raspberry PiをWi-Fiで繋ぎ、ノートPCからリモートデスクトップでRaspberry Piを操作します。
「guvcview」で画像を確認しつつ、サーボモーターを回転させて、カメラ向きを制御します。

使用感

・カメラ位置の深度が大きくなると通信が遅くなり、カメラ画像がカクつく。外付けのWi-Fiアンテナを使ったほうが良いかもしれない。
・集水量が多い集水井は防水が不安。
・モーターのトルクが小さすぎた。壊れやすい。

今後の拡張

Raspberry Piには、カメラ以外のセンサを接続したり、ソフトを入れたりできます。Pyhonにはこれらのライブラリがそろっていて利用しやすい環境のようです。光学画像以外に以下のものが同時にとれると面白いかもしれません。今後やってみたいと思います。

・センサ
赤外線カメラ:地下水位がわかるかもしれません。
Lidar(距離計):井戸のひずみが得られるかもしれません。

・ソフト
OpenCV:オープンソースの画像処理解析ソフト。機械学習もできます。腐食やクラックの検出器を事前に作っておけば、webカメラ画像にリアルタイムで検出結果を出力できそうです。点検が効率よくなるかもしれません。