BaFEM 大変形可能な有限要素法(FEM)解析
深層崩壊の増加
日本は国土の約7割が山地で,斜面が多いことで知られています。それは日本が地盤変動の活発な、地質が複雑な場所にあるからです。このような火成岩や付加体から構成される斜面では,斜面崩壊が多く発生しています。斜面崩壊には表層部で発生する表層崩壊,深層部で発生する深層崩壊の2つが存在します。この2つは、近年頻発する豪雨災害や,地殻変動の活発化に伴う地震によりその発生件数は増加傾向にあり,過去の平均発生件数を上回ることが多くなっています。
特に被害範囲の大きい深層崩壊は斜面の内部構造を把握することが危険な斜面かを評価する上で重要ですが,抽出することが重要になります。しかし,これまでの調査方法は,ボーリング調査・物理探査など,費用が掛かります。その上,大規模な対策施設の建設をすべての危険な斜面で実施することは困難です。BaFEMはこの問題に対応すべく,斜面の内部構造を,変形に伴う大変形を踏まえて解析することで,斜面の変形位置,歪みの集中箇所を把握することが出来る解析法です。
バランス断面法の斜面への適用
バランス断面法は,構造地質学の分野において,地上の変形地形から地下の断層位置と地層の変形を推定するのに使われてきた手法です。 バランス断面法は断層や褶曲等による変形前後で地層の長さと面積が一定(バランスが取れている)であると仮定し,その上で,現在の変形後の地形断面を,断層運動による変形前の断面に戻し,断層や褶曲等の断面形状を推定します。
小坂(2015)は,断層面をすべり面に置き換えることで,地質構造を把握するために用いられてきたバランス断面法で,斜面地下のすべり面の有無,すべりに伴う斜面地形の変化を把握できることを示しました。この手法であれば,従来のボーリング調査や物理探査を行う前段階として,斜面地形から,迅速に危険な重力変形斜面の評価を行うことが可能になります。
しかしバランス断面法は,作図に熟練した地質技術を必要とし,作業可能な者が限られる上に,斜面の重力変形の合理的な評価や,斜面対策工の設計に必要な斜面内部の力学的情報(応力・ひずみ・局所安全率等)を得ることができません。そのため,バランス断面法による斜面重力変形を数値解析で幾何学的,力学的に再現する必要があります。
大変形に対応したFEM
斜面解析に広く使用されてきたFEM(有限要素法)は,バランス断面法で表現される「ずれ」や「剥離」といった大変形に対応することは難しいとされてきました。そこで,節点間の距離に応じて自動で生成,削除される「接触要素」という手法でFEMでの大変形解析を可能にしました。この「接触要素」を用いることで,バランス断面法で表現されるすべり面の形成とそれに伴う斜面地形の再現が可能になりました。この「接触要素」を用いてバランス断面法で可能な斜面解析を行う解析手法を『BaFEM(Balanced cross section concept-based Finite Element Method)と名付けました。このBaFEMを使用して解析することで,岩盤斜面が今どこまで変形しているのか,今後どの場所にどんな変形が発生するのかを,斜面地形から素早く把握することが可能になりました。